資生堂掛川工場のトラックヤード
- FULL POWER STUDIO
- 2019年7月1日
- 読了時間: 5分
更新日:5月30日
資生堂掛川工場のトラックヤードの拡張を伴う大屋根計画。計画では幅170m、奥行30mの敷地に外部温熱環境と季節風から大切な商品を守り、出荷作業の安全と快適性を確保する建築が求められた。課題となった通気と自然光確保のために、デジタルファブリケーションを用いた3,864 枚のルーバーで出来た環境ウォールをパラメトリックに設計し、適切な風と光を屋根下に導く「呼吸する建築」を作ることに成功した。新幹線の車窓に映る同工場は自然と人工物が調和する資生堂らしい場であり、本作がその文脈の一部となるよう取り組んだ。

資生堂掛川工場 LOADING BAY
受賞
北米照明学会 Illumination Awards 受賞(2020)
所在地
静岡県掛川市
主要用途
工場
建主
資生堂
意匠設計
FULL POWER STUDIO
構造・設備設計
フジタ
施工
フジタ
規模
敷地面積 148,601.33㎡
建築面積 3,592.34㎡
延床面積 3226.71㎡
建蔽率 26.31%(許容:70%)
容積率 44.16%(許容:200%)
階数 地上1階
Photo
車田写真事務所
資生堂のものづくりの場を象徴するショートストーリーを継承する
資生堂の国内基幹工場のひとつである掛川工場の、工場棟北側に隣接するトラックヤードの大屋根計画である.生産量の増加に伴い入出荷ヤードを拡張すること、地球温暖化により年々厳しくなっている外部温熱環境や冬季の厳しい季節風から大切な商品を守り、入出荷作業の安全性、快適性を確保することが求められた.
東海道新幹線に面する掛川工場敷地北側には、「資生堂企業資料館」や「資生堂アートハウス」が、自然の風景が連なるランドスケープの中に凛として建ち並んでおり、計画地はその一連の風景の一端に位置する.新幹線の車窓に映るその流れゆく風景は、人工美と自然美が共生・調和し、資生堂らしい「ものづくりの場」を象徴するようなショートストーリーを創り上げていた.
計画にあたっては、多くの車両が行き交う中で安全性を確保するために、また、搬入出を行うトラックやフォークリフトの走行・停車場所などを、運用に合わせて柔軟に選択できるように、3棟の工場の間口いっぱいに幅170m、奥行30mのスペースをトラックヤードとして使用することとなった.そして、求められる温熱・風環境を整えるためには、この170m×30mのスペース全体にひとつの連続した大屋根をかけ、北面には全長170mの防風壁を設ける必要があった.しかしながら、単に屋根と壁で全体を覆ってしまうと、屋根下には熱や排気がこもりやすく、自然光が確保できないために日中でも人工照明に頼らざるを得ない.そこで私たちは、屋根下に自然の風をほどよく取り入れながら自然光を導く、環境ウォールを計画した.北側外壁は、南側からの太陽光を反射させて屋根下へと導くために、レフ板となる3,864枚のアルミルーバーで構成し、壁面全体を外側に膨らませる断面形状とした.屋根下は、北面でありながらも非常に明るいこの環境ウォールにより明るさが確保され、同時に突風を遮りながらも換気を促す、いわば「呼吸する建築」をつくることに成功した.さらには、このふっくらとした外装形状は、資生堂化粧品が生みだす「美」を連想させるような「ふくよかさ」「ユニークさ(個性)」、「リフトアップ」…といった企業イメージを彷彿とさせ、資生堂掛川工場が継承してきたショートストーリーの中で、時にプロローグとなり、時にエンドロールとなるような風景を作り出している.








デジタルシミュレーションとデジタルファブリケーション
~時速200㎞で見るファサードのあり方~
ふんわりとしながらも張りのある、有機的で優美なSの字形状を表現するにあたり、機能性やメンテナンス性も踏まえ、等断面のアルミルーバーを、曲線状の下地鉄骨の法線に対して一定の角度(21度)で取り付けていくこととした.これを新幹線から眺める場合、つまり時間にして約3秒間、一瞬で通り過ぎるワイドパノラマの景観として見るときに、滑らかに見える最適な「解像度」をみつけることが課題であった.また、一見複雑でユニークなこの形状を、いかにシンプルなルールと効率的なワークフローにより限られた工期内で確実に実現するか、という点がもうひとつの課題であった.そこで私たちは、設計初期段階からパラメトリックモデリングを行い、光環境のシュミレーションや、パース・動画による見え方の確認、調整を行った.また、そこで得られた複雑な形状の3Dモデルデータの活用と、60㎜厚鉄板を溶断可能なNC加工技術により、「設計事務所→サッシメーカー→鉄工所→NC加工所→現場」のフローによる、デジタルファブリケーションを実践した.
パラメトリックモデリングからNC加工入力のユニファイドマネジメントのフロー



時節ごとのプログラミングによるライティング
夜間には北側ルーバー壁の形状に合わせたライトアップを行い、季節ごとのスペシャルカラーをプログラムすることで、行き交う人々が変化を楽しむことのできる演出を行なっている.フルカラーLED照明器具を等間隔に配置し、特注バンドアを設置することで、複雑な形状のルーバーファサードの凸部分のみを均一にライトアップしている.


