MMPCコンサルタンツ本社屋
- FULL POWER STUDIO
- 2021年4月1日
- 読了時間: 5分
更新日:5月30日
会計事務所の本社建替え計画。セキュリティや秘匿性と、活発で創発的なオープンなオフィスという相反する要望を、スキップフロアのレベル差とアダプティブな機能配置によって面積を抑えながら実現した。雪の多い計画地で南側への建物配置が制限されていたため、建物北側に極力太陽光を取り込み、融雪を促すサステナブルな解決を図り、大開口から内部を見せつつ、夏の西日をカットし、冬の雪をガラス面に寄せ付けない屋根形状と深い庇を計画した。螺旋状の内部と外部環境に呼応したユニークな形状によって地域のランドマークとなる建築となった。

MMPCコンサルタンツ本社屋 studio mirai
受賞
第34回日経ニューオフィス賞
ニューオフィス推進賞(全国BEST16)
中部経済産業局長賞
所在地
岐阜県高山市
主要用途
事務所
建主
MMPCコンサルタンツ
設計
建築:FULL POWER STUDIO
オフィス家具:イトーキ
構造:EQSD一級建築士事務所
設備:建築設備計画
施工
建築:井上工務店
空調・衛生:アクアテック
電気:柳瀬電機
規模
敷地面積 1,865.81 ㎡
建築面積 433.71 ㎡
延床面積 708.80 ㎡
1階 438.71 ㎡/2階 270.09 ㎡
建蔽率 23.25 %(許容:60%)
容積率 31.36%(許容:200%)
階数 地上2階
Photo
新名清
地域社会の縮図リソースを活かしビジネスを加速させる会計事務所
高山市に本社を置き、名古屋市にも拠点を持つ会計事務所の本社屋現地建替え計画。
会計事務所には、地域のあらゆるビジネスが集まり、とりわけ高山のような地方都市においては、地域社会の縮図がある。その特性を活かし、地域のハブとなり、地域をつなぐ仕掛けとなる、コミュニケーション・クリエイティブのための空間「結」をつくることで、地域社会と共に、自社の発展にも寄与することを目指した。合掌造りの屋根葺き替えを村挙げ協同し、地域の絆を育む、「結(ゆい)」の心がある。「結」の心を継承し、顧客、スタッフが皆で知恵を出しあう場「結エリア」を建物の1階中央に添えた。1対1の商談、講演会方式の異業種交流会そしてワークショップに対応する、段床を持つ平土間空間「賑」を人通りの多い県道側に、活動が見えるよう配置した。秘匿情報を扱う、中二階以上のオフィスとも一体的につなぐことで、顧客と複数の部署をまたぐコミュニケーションが図られるように計画した。そして、ここで得られる情報を世界に発信するスタジオ「庵」を計画した。これと「賑」に併設した大型マルチビジョンを活かすことで、リモートで業務を行うスタッフとのリアルタイム連携を実現し、WITHコロナに対応したオフィスを実現した。



高いセキュリティが求められる会計事務所を開く

人が集まるオープンな場や視線が通る一続きの空間を目指す一方で、顧客の大切な情報守るための秘匿性確保が重要であった。一見、相対するこの課題を両立させるのが、半径22mの範囲に収まる螺旋状のスキップフロア型ワンルームである。螺旋状のスキップフロアやフロア間をつなぐ大階段が、平面・断面方向の距離を生み出すことで、一続きの空間でありながらも、互いの視線をずらし、セキュリティ確保を実現した。
雪国・高山の気候を踏まえたオフィス

水害の危険性と底冷え対策のため、床レベルを上げ、床吹き出し空調を計画した。一方で、雪国・高山のオフィスには、全天候型の屋根付き駐車場、車寄せが必要であった。そこで、建物の一部をピロティ状の駐車場・車寄せ空間とし、スキップフロアをつなぐ大階段の下に空調機械を収めている。また、北側の軒先を低く抑える傾斜屋根により、建物北側に極力影をつくらないようにし、雪かきの負担を抑えるとともに、西日による熱負を抑制する、深い庇によりガラス面に雪を寄せ付けない計画とした。夏場の回り込み日射には、夏の高山風物詩である「すだれ」を外部に計画し、集落景観に寄与する外観デザインとした。

山並みに調和し、風景を取り込む建物形状

螺旋状スキップフロアの内部空間と、外部環境に応じた外観が相応した、M型屋根の建物形状は、遠景に広がる北アルプスの山並みに調和する。また、1階西側には国道側に開いた大きな開口部から豊かな田園風景を臨み、中2階には風景を切り取るように窓を設け、東側遠景に臨む美しい北アルプスの山並みを眺められるようにした。また、2階は南側に開くことで、隣接する松倉山の緑を存分に感じることができる。オフィスに植物を置くことで生産性が上がることが知られているが、周辺に豊かな自然環境が広がる本計画地においては、周囲の風景を取り込むことでその効果を得ることができる。








敷地形状に沿うように配置された、2つの不等辺直角三角形を背合わせにした平面形状と、螺旋状にスキップする断面形状を踏まえ、その中心部に、コアフレームとなるH鋼による片流れブレースを配置し、多方向の加力に対しバランスの取れた構造計画とした。これにより、偏心を抑えるとともに、外周部の柱断面を小さく抑え、大空間でありながら、高山の古民家を彷彿とさせるような、構造部材スケールを実現した。

部屋用途イメージにあわせた墨によるアートワーク

