氷見市海浜植物園 シーサイドパーク
- FULL POWER STUDIO
- 2020年6月1日
- 読了時間: 6分
更新日:5月30日
長谷川逸子・建築計画工房設計による国内唯一の海浜植物園を、子どもの遊び場と、大人用のリカレント研修室にコンバージョンする計画。計画では既存建物と植物を活かした上で、晴れが少ない北陸で毎日元気に子どもたちが遊べること、バイオフィリックなABWオフィスとして新しい働き方を支援すること、ワークショップなどを通じて地域の思いが詰まったものとする3点を重視した。植物の保存、植物のための温湿度環境の維持など新しいプログラムと乖離した一見理不尽に思える既存建物の諸要素を積極的活かし本建築は生まれた。

氷見市海浜植物園 シーサイドパーク
所在地
富山県氷見市
主要用途
植物園
建主
氷見市
設計コンセプト
FULL POWER STUDIO株式会社
遊具デザイン
太陽工業株式会社一級建築士事務所
建築設計・監理
FULL POWER STUDIO株式会社・株式会社中川建築設計事務所
太陽工業株式会社一級建築士事務所
施工
石黒建設株式会社
規模
敷地面積 10,095.77㎡
建築面積 2,335.87㎡
延床面積 2,875.24㎡
建蔽率 23.14%(許容:60%)
容積率 28.48%(許容:200%)
階数 地上2階
Photo
新名清
長年に渡り人々に親しまれてきた氷見市海浜植物園。国内唯一の海浜植物園を、植物園機能を残し、活かしながら、子どものための遊び場とActivity Based Working(ABW)を後押しする、大人のためのリカレント学習施設にコンバージョンする計画である。私たちにとって、体育館を改修した市庁舎に続き、氷見市で2つめのコンバージョン計画となった。長谷川逸子・建築計画工房によって設計された既存建物の環状の形態は、回遊性が確保され、半透明のガラス温室により、閉じられながらも視線は周囲に開かれていた。この建築形態は、子どもたちの安全とセキュリティが確保されながら賑わいも演出しやすく、今回のリニューアル計画との親和性があった。
私たちは、晴れの日が少ない北陸・氷見において、365日子どもたちが元気いっぱい遊べること、貴重な海浜植物を活かし、新しい働き方を支援するクリエイティブな場を創造すること、そして、みんなで一緒で創り上げることで地域の人々の思いが詰まった計画とすること、この3点を重視した。オーバル状に連続する温室に囲まれた中庭空間に、子どもたちに人気のある遊具、大型ネット遊具とふわふわドームを極力離して配置した。外部のふわふわドームの上部には富山湾越しに見える雪化粧の日本の屋根・北アルプスを思わせるような白いふわふわ大屋根を、大温室に向かって引き延ばすようにかけた。大温室→グラスチューブ→ふわふわ大屋根→既存建物と辿ることで、天候に関わらず、子どもたちが空間全体をのびのびと駆け回ることができる回遊性を確保している。
大人のためのリカレント研修室は、既存の大温室に貫入配置することで、温室内でいきいきと生茂る迫力ある植物たちを間近に感じることができる空間とした。また、扉を開けると植物の匂いや亜熱帯特有の温湿度が肌で感じられるミーティングスペースを計画した。まさに、亜熱帯のリアルグリーンが人々の創造性とリラックス効果を高める(バイオフィリックデザイン)クリエイティブオフィスの実現である。
大人たちの活動空間であるリカレント研修室は、子どもたちが駆け回る中庭と大温室にまたがるよう配置した。双方の活動が見渡せるようガラスで仕切ることで、大人たちの活動空間から大温室内のネット遊具や芝生広場で遊ぶ子どもたちへと視線が通り、子ども連れでも安心して学ぶことができる環境となっている。
地域の子どもたちによる、オリジナルの大型遊具を考えるワークショップを開催した。また、富山大学芸術文化学部の有田准教授指導のもと、ネット遊具の子どもたちだけが見下ろすことのできる温室内のアートワークのデザインと施工を学生が行った。これからの地域を支える若い世代のアイディアが盛り込まれた。
新築計画では生まれにくい、コンバージョンならではのデザイン創造過程がある。それは、新しく生まれ変わるプログラムと乖離した、既存建物の要素である。保護が必要な絶滅危惧種のソテツを残すこと、亜熱帯植物のための温湿度環境を維持すること、全面ガラス張りの温熱環境など、遊び・学びの空間にとって、一見すると理不尽な条件を解決し活かすことにより、他にはない、ここだけの植物園+子育て支援+ABWを推進するクリエイティブオフィスが誕生した。(降旗範行)











貴重な温室内の植物を活かしたバイオフィリックデザインを実現するには、北陸の厳しい冬にまたがる工事期間中の植物への配慮が必要であった.工事中は、保存する植物の周囲をシートで囲い、内部にストーブを設置し採暖を行った。
夏季もガラス張りの大温室の中で子どもたちが安全に遊ぶことができるよう、ネット遊具上部には日射を和らげるスクリーンを設け、ネット遊具や回遊デッキなど、子どもたちの活動範囲をスポット空調により部分的に冷却している。また、亜熱帯植物があるエリアをビニルカーテンにより区画し、重点的に温室空調を行うことで空調効率を高めている。
ガラス大温室に貫入した増築部分は、既存の構造に遡及しないよう、鉄骨と大断面木材による独立した構造架構とした。既存躯体に吊り下げた大型ネット遊具は、既設計で見込まれていた積雪荷重の余裕分を利用し、既存構造躯体の危険が増大しないよう、固定位置を計画した。
また、ガラス温室で囲われた中庭空間での工事を行うため、ガラスチューブの一部を改修し、重機の搬出入口を設けた。この搬出入口は、芝生広場でのイベント開催時のサービス車両の出入りや遊具の追加・更新など、運用後の活用も想定している。様々な屋外イベントに対応できるよう、広場内には外部電源も用意した。
ふわふわドーム周囲のランドスケープには、既存中庭で使われていた岩を一部再利用したほか、基礎工事で発生した土は芝生広場のマウンドを作るために利用するなど、既存の資源を極力活用する計画とした。(酒井千草)
写真説明左から)
温室内の植物をシートで囲い、採暖しながら行った工事の様子
リニューアル前の中庭空間

写真説明左から)
子どもたちによるオリジナル大型遊具ワークショップの様子
富山大学の学生による温室内アートワークのデザインコンペティションの様子